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脳卒中・脳の血管病治療では国内有数の実績をもつ大田記念病院がお届けする脳卒中と脳の血管の病気についての情報

 

はじめに                                                                                    

脳卒中とは急に手足がしびれたり、しゃべれなくなったり、意識がなくなったり、あるいはめまいがしたり、激しい頭痛がする発作の総称です。昔のひとが、これは脳が急に(卒然と)悪い風に当たる(中る)ためにおこる病気と解釈してこのような名前をつけました。実際には脳の血管が詰まったり(梗塞) 、あるいは破れたり(出血)して脳の機能が障害されるために生じる病気です。脳卒中の治療は時間との戦いと言われます。それは脳卒中の有効な治療が出来る時間は極めて限られているということです。脳は極めてデリケートな器官であるため、血管の病変によって障害を受けた場合、迅速に処置しないとダメージが広がります。適切に処置できるように、どのような症候が出たら脳卒中・脳血管病を疑わなければならないのか、その際どのような病院に行けば良いのかを予め知っておいて下さい。脳卒中の患者さんが搬入される病院にも、治療実績の少ない病院、脳卒中を専門とする医師の居ない病院から、脳卒中関係の各科の専門家、診断機器がそろっていて治療実績の多い病院までさまざまです。従って、現実にそこで行われている脳卒中診療も当り障りの無い保存的な治療から、より原因に肉薄する積極的な治療までさまざまです。

残念ながらわが国では良質の医療情報は極めて得にくいのが実情です。マスコミでは華やかな医療の革新が伝えられる一方、医療現場での事故やミスも連日のように伝えられることもあって医療に対する不信の念が募っています。最先端病院や名医紹介といった類の本が次から次へと出版されるのも、知りたい情報が容易に得られない現状の反映と考えられます。インターネットの検索サイトで調べると、多くの病院、医院の華やかなホームページが見つかりますが、しっくりしない気持ちを抱いて、結局はクチコミに頼るしかないと思っている方も多いことと思われます。

このたび、脳神経センター大田記念病院では、脳卒中と脳の血管の病気と戦い、予防するのに必要な情報を少しでもお伝えしたいと願って、このホームページを開設いたしました。内容の解説をいたしますと、皆様が最も関心を持たれる脳卒中の症状と徴候検査と病名からはじめ、私達が行っている治療法の選択と続けました。治療の実例では最新の治療内容を実感して頂けるように、私達がこれまでに実際に治療したケースの中から代表例を呈示します。医療の問題点では、皆様が実際に診療を受けるに際して直面する制度上の問題とインフォームド・コンセントを取り上げました。人間の脳は捉えどころのないものというのが多くの方の実感だと思いますので、脳の仕組みと働きそれに脳卒中の予防法を脳を守るで述べました。それから脳卒中・脳血管病治療の拠点として私達がどのような態勢をひいているかを大田記念病院―脳卒中、脳血管病治療態勢で説明します。診療活動のなかには治療成績、合併症(治療行為に伴って生じる障害)についても公表しました。多くの患者さんが社会復帰を果たしている反面、いかに早く、いかに適切な治療を受けても救えない命、回復できない機能障害があり、また治療に伴う合併症(治療行為に伴って生じる障害)が一定の確率で生じるのも脳卒中、脳血管病のひとつの冷厳な事実だからです。エピローグではQ&Aのセクションで私達が患者さん・ご家族からもっとも良く受ける質問を取り上げてお答えしています。また、編集後記ではこのホームページを作るにあたって感じたことを述べています。

 

ページ2 目次

1] 症状と徴候―このような症候があったら要注意!

頭痛、はきけ

めまい

耳鳴り

意識を失う

しびれ、脱力、まひ

ものが二つに見える

物が見えにくい

物忘れがひどい、痴呆

 

2] 検査と病名―診断のつけ方と病気の解説

神経学的検査

外来に歩いて受診された場合

救急車で搬入された場合

画像診断

CT

MRI

CT血管撮影

MR血管撮影

血管撮影(カテーテル検査,DSA

超音波検査

キセノンCT

病名

I. 脳卒中

II 脳の血管病変

 

3] 治療法の選択内科、外科、血管内治療

脳卒中

a) 脳梗塞(のう こうそく)

b) 脳出血 (のう しゅっけつ)

c)くも膜下出血(くもまくか しゅっけつ)

脳の血管病変

1) 未破裂動脈瘤(みはれつ どうみゃくりゅう)

2) 脳動静脈奇形(のう どうじょうみゃく きけい)

3) 動静脈瘻(どうじょうみゃく ろう)

 

4] 治療の実例―このように治療します

脳塞栓(のう そくせん)

脳動脈狭窄(のう どうみゃく きょうさく)

くも膜下出血(くもまくか しゅっけつ)

未破裂動脈瘤(みはれつ どうみゃくりゅう)

脳動静脈奇形(のう どうじょうみゃく きけい)

動静脈瘻(どうじょうみゃく ろう)

   硬膜動静脈瘻(こうまく どうじょうみゃく ろう)

   ガレン大静脈瘤(ガレン だいじょうみゃくりゅう)

 

5] 医療の問題点

1)    なぜ、いま脳卒中が大事なのでしょうか

歴史的レビュー

わが国の脳卒中医療の現状

望ましい脳卒中医療態勢

2)インフォームド・コンセントの重要性

  本質は自己決定権

 

6] 脳卒中の予防

脳の仕組みと働き脳、このデリケートな大食漢!

 

脳卒中の危険因子を減らすには

高血圧

高脂血症

喫煙

糖尿病

肥満、ストレス

脳卒中の家族歴

 

体験談―「脳卒中の虎口を逃れて」

 

脳ドックについて

 

7)大田記念病院

―脳卒中、脳血管病治療態勢

医療設備は

ICU, SCU(31床)を中心とした

救急態勢は

こんな診療科があります

私達が治療にあたります

これが治療実績です

外来スケジュールは

大田記念病院への道順

脳ドックについて

脳卒中の広報活動

病院脳神経外科学会開催のお知らせ

学生セミナー開催のお知らせ

 

8) エピローグ

Q and A

編集後記

 

 

ページ3以降 各論

1] 症状と徴候

症状は患者さん自身が自覚するもの、徴候は他人、ことに医師が指摘する病気のサインを指します。

このような症候があったら要注意!

“頭痛、はきけ”

 頭痛はいろんな原因で生じますが、急に生じた頭痛で特に“普段経験したことのない強い痛み”の場合には脳卒中の疑いがあり、要注意です。頭痛が強い場合には頭痛に伴ってはきけ(嘔気・嘔吐)を伴うことが多くあります。

“めまい”

 めまいには回転性めまい(景色がくるくる回って見える)、浮遊感(船に乗ったようにゆらゆらする)などがあります。急に生じためまいでは、はきけ(嘔気・嘔吐)を伴うことが多いです。めまいの原因にはいろいろあり、脳卒中は原因の一部です。しかし、急に生じためまいは脳卒中の恐れがあり、要注意です。特に、手足のしびれや脱力、物が二重に見えるなどの症状を伴っている場合には、めまい症状が軽微でも要注意です。

“耳鳴り”

 年齢とともに耳鳴りを経験される患者さんが多くなります。セミの鳴き声のように小さな音である耳鳴りは加齢現象で生じる場合が多いようです。脈拍に一致してザクザクあるいはザーザーという大きな耳鳴りが生じた場合には動静脈瘻(後述)という病気が原因である場合があります。

意識を失う“

 急に目の前が真っ暗になり、気をうしなった場合には脳と心臓の両方に原因がある可能性があります。脳に原因がある場合では頚部や頭蓋内の太い血管が細くなったための脳貧血のことがあります。一方、心臓に原因がある場合には不整脈(脈の乱れ)にて生じる場合があります。意識障害には眠りがち(傾眠)から昏睡まで程度がさまざまです。意識障害は徐々にあるいは急に進行することがあります。

“しびれ、脱力、まひ” 

 顔とか右あるいは左の片側の手足の感覚がなくなる(しびれ)、右あるいは左の片側の手足の力がぬけてしまう(脱力、まひ)が急に出現した場合には脳卒中発作を第一に考える必要があります。例えば、無意識に手にもったものを落としてしまうことや上手に歩けないことで、脱力やまひに気付くことがよくあります。

“しゃべれない”

言語障害には次の2通りがあります。

失語症

大脳の言語中枢の障害によるもので、話し掛けられても理解できない(感覚性失語)場合と思ったことを言えない(運動性失語)場合、さらにどちらもできない場合があります。症状の出方は障害の広がりによって違ってきます.

構語障害

舌や口の周りの筋肉の麻痺によって呂律が回らなくなることです。言葉の内容や理解力は障害されません.

“ものが二つに見える”

 片目ずつではちゃんと見えるが、両目で見るとものがだぶって二つに見えるということが急に生じた場合には、眼科的な病気よりは脳卒中など、脳に原因がある場合が多いようです。

“物が見えにくい”

 視野(視界)の半分が急に見えにくくなる(視野障害)や急に片側の目が真っ暗になり見えなくなる(黒内障)場合には脳卒中が原因である場合があります。視野障害の場合は大脳(後頭葉)の視覚中枢の障害、黒内障の場合には大脳を栄養する内頚動脈の枝である眼動脈の血流障害が原因で生じます。

“物忘れがひどい、痴呆”

 ぼけ(痴呆)は治すことができないものが多いのが実情です。しかし、少数例ですが中には適切な治療で治るぼけ(痴呆)があり、その1つが脳卒中です。“急にぼけた”場合、すなわち最近(特に数時間以内)の出来事など新しいことが覚えれなくなり、同じことを何度も繰り返し聞くなどの物忘れが急に生じた場合には、脳卒中が原因であることがあります。

 

2] 検査と病名

神経学的検査

画像診断の目覚しい進歩を遂げた今日でも、脳卒中医療における神経学的検査の重要性は変わりません。時間的制約の大きい状況下で、患者さんとご家族から病歴を詳しくお聞きすることによって診断のめぼしをつけるとともに、診察というスキンシップが温かみのある医療を達成するための第1歩となるからです。

脳卒中の診断には現病歴(どのような経過で症状が出現したか?急に生じたか否

か?)と既往歴(高血圧、糖尿病、高脂血症、虚血性心疾患、不整脈など)それに診察(神経学的検査)が重要です。

      外来に歩いて受診された場合

脳の障害される程度が軽い場合には意識は清明で片側の運動麻痺(片麻痺)、半身の感覚障害、言語障害などが急に出現したことを主訴に外来に歩いて受診されることが多いので、ある程度時間をかけて現病歴の聴取と診察を行います。診察では運動麻痺(片麻痺)、言語障害、(半身の)感覚障害など脳卒中によく見られる症状の有無に注意します。軽い運動麻痺の場合には握力測定、上肢および下肢のバレー徴候の有無に注意して見逃しのないように気をつけます。

1.上肢のバレー徴候

患者さんに両腕を手のひらを上にして前方に水平に挙上させ、閉眼させて、そのままの位置に保つように命じます。麻痺がある側の上肢は内側に向いて、次第に落下して来るので軽い麻痺でも分かります。垂直に急速に落下する場合、むしろヒステリーのようなものを考えた方がよいでしょう。

2.下肢のバレー徴候

患者さんをうつ伏せにして、両側の下腿を膝関節が約135°ぐらいに開くような位置に持ち上げさせて保持させます。麻痺がある側の下肢は次第に落下して来るので、軽度の麻痺を発見するのに良い方法です。

      救急車で搬入された場合

脳の障害が高度な場合には意識障害を伴った高度な運動麻痺、言語障害にて救急車で搬入されます。脳出血の中のクモ膜下出血は他の脳卒中とは若干異なり、片側の運動麻痺(片麻痺)、半身の感覚障害、言語障害などがなく頭痛が主な症状である場合が多いです。救急車で搬入される患者さんは意識障害を伴った重症例が多く救急室でも病状が急速に変化する場合があります。意識状態の評価、バイタルサイン(呼吸状態、脈拍・血圧)のチェックを迅速に行い、画像検査による脳出血と脳梗塞の鑑別を早急に行なう必要があります。脳梗塞、特に、心原性脳塞栓の場合には発症6時間以内に限り血栓溶解治療(閉塞した血管を再開通させる治療)を行うべきか否かの判断を迅速に行い、適応がある場合には直ちに治療を開始する必要があります。クモ膜下出血では再出血による突然死を生じやすい病気で、鎮静と血圧コントロールを迅速に行うという慎重な対応が必要です。

 要するに、外来に歩いて受診された場合には病歴聴取や診察(神経学的検査)に時間をかけることが出来ますが、救急車で搬入されるような意識障害を伴う場合には発症からの時間経過が治療上の重要なポイントとなりますので病歴聴取や診察に要する時間は最小限とし画像検査にて脳出血と脳梗塞の鑑別を迅速に行い治療を開始します。

 

 

画像診断

CT

X線を用いた断層写真です.数分以内で10数枚の脳の水平断面図が得られるという簡便性が特徴です。脳内出血やある程度大きな腫瘍の有無を調べるには十分ですが,小さな脳硬塞はMRIのほうが良く見えます.一方,骨の状態や病変の石灰化などMRIよりもCTのほうがよくわかる場合もあります。なお、発症数時間以内の脳梗塞の検出はCTでは困難です。

MRI

磁力を利用した断層写真です.何回撮ってもX線被曝の心配がありませんが,心臓ペースメーカーや古いタイプの脳動脈瘤クリップなどの体内に金属が埋め込まれていると検査ができません.脳梗塞や脳腫瘍など大部分の脳の病気ではCTよりも詳しく状態を知ることができるので,脳の病気に対しては最も有用な検査となっています.また,脊髄や椎間板の病気でも非常に役に立ちます.病気によっては造影剤という薬を静脈注射して病変部を浮き立たせることもあります.検査時間は内容によって異なりますが,30分から1時間位かかります.

CT血管撮影

造影剤を静脈注射しながらCTで脳や頸部の血管を撮ります.コンピューターで処理することによって立体感のある画像となります.静脈注射だけでMR血管撮影よりも精密な血管の画像が得られ,立体的な位置関係が良く分かります.特に動脈瘤の治療方針決定に際し、血管内手術が可能かどうかの判断、開頭手術に際してのアプローチの決定などをするのに非常に役に立ちます.撮像時間も数分以内と短く負担も軽いのですが,造影剤を使う必要があることが欠点で時にアレルギー症状が出ることがあります.

MR血管撮影

MRI装置を使った脳や頸部の血管の検査です.通常は薬を使わないので危険性や痛みが全くありませんが,最近では造影剤を使って頭頸部の広い範囲を撮像することもあります.動脈瘤の有無や、血管が細くなっているところがないかを簡便に調べることができます.欠点は精度がやや劣ることで,屈曲部では実際よりも血管が細く見えたり直径が5mm未満の小さな動脈瘤ははっきりしないということがしばしば起ります.検査時間も約10分と長く,この間に頭が動いてしまうと血管が良く見えなくなります.

血管撮影(カテーテル検査,DSA

血管について最も精密な画像が得られる検査で,動脈狭窄,動脈瘤,脳腫瘍などの治療に際して必要となります.カテーテルと呼ばれる細い管を通常は足の付根(大腿動脈)から入れて,先端を頸部の動脈内に進めます.そこからCT血管撮影に使われるものと同種類の造影剤を注入してX線写真を撮ります.最近はDSA(デジタルサブトラクションアンギオグラフィー)と呼ばれるコンピューターを使った装置で頭蓋骨を消し去った、精密な脳の血管立体像を診断と血管内治療に用います.血管撮影はCTMRIに比べて大がかりな検査となり,検査入院して行うのが一般的ですが.普通、小学校5年生だと局所麻酔で行え,30分から一時間程で終わります.精密な写真を撮るため、カテーテルを頸部の動脈内にまで入れる必要がありますので,稀に検査自体が原因となって脳梗塞(脳塞栓症)を起すことがあります。したがって、治療上特に必要性の高い方以外にこの検査をお勧めすることはありません.

超音波検査

超音波(エコー)にて頸部の血管の状態を調べる検査です.血管が細くなっていないかや血管壁の状態,血液の流速などがわかります.安全で身体に負担のない検査ですが,骨が邪魔になる部位や動脈壁が固くなっている(石灰化)部分は良く見えないという欠点があります.

キセノンCT

脳の血流量の検査で,頸部や脳血管に狭窄がある方において脳に十分な血液が流れているかどうかを調べます.血管が細くなっているところに対して,風船治療で拡張したりバイパス手術をする必要性があるかを判断するのに役立ちます.キセノンガスをマスクから吸入しながら繰り返し脳のCTを撮ります.キセノンガスは安全ですが,吸入中はお酒に酔ったような感覚があります.脳循環の予備能を調べるために血管拡張剤を静脈注射してからキセノンCTを撮ることもあります.

 

病名

神経学的検査と画像診断に基づいて下される病名診断を解説します。脳卒中と脳の血管病変に分けて説明しています。脳卒中は脳の血管が詰まったり(梗塞)、あるいは破れたり(出血)して脳の機能が障害される病気ですが、それぞれに原因となる脳の血管病変が存在しますので、それは脳卒中の中で該当する項目でとりあげています。しかし、なんらの症状を出していない無症候性動脈瘤や、逆に脳卒中以外にも多彩な症候を出す脳動静脈奇形や脳動静脈瘻は脳の血管病変の項で取り上げました。

I. 脳卒中

a)    脳梗塞(のう こうそく)

脳梗塞は、脳内の血管がつまったり、細くなったりして、血液の流れが悪くなり、脳の組織が死んでしまうもので、むかし脳軟化といわれたものです。つまった血管の場所によって、さまざまな症状が出現します。急に血液の流れが遮断されると、症状も急激に出現します。

a-1) 脳塞栓(のう そくせん)

心房細動や弁膜疾患のある患者さん、それに動脈硬化の強い患者さんで、心臓や大きな動脈に出来た血栓(血の塊)が飛んで脳の動脈が突然詰まることがあります。脳の中でその動脈によって養われていた領域が突然極端な虚血状態に陥るため、症候の出方や進み具合もすべての脳卒中のなかで最も急激で死に至ることもしばしばです。内頸動脈系、ことに中大脳動脈の閉塞が多いため、症状は重度の片麻痺と感覚障害、さらに優位大脳半球の場合は失語症が見られることが多いのが特徴です。椎骨脳底動脈系の閉塞は比較的少ないが、脳底動脈が閉塞すると眼球運動障害、四肢麻痺、急激な意識障害を呈し、後大脳動脈が閉塞すれば半盲と感覚障害などを生じます。

a-2) 脳血栓(のう けっせん)

a-2-イ)ラクナ梗塞

ラクナとは「小孔」の意味です。高血圧などによって脳の細い血管(穿通枝)が変性や壊死を起こして詰まり、そのために脳実質内に多数の小孔瘢痕(小さな梗塞)が起こります。危険因子は高血圧で、梗塞と同時に(高血圧性)脳出血の原因とも共通します。ラクナ梗塞は多発する傾向が多いため、手足のしびれや運動障害、あるいは言葉が話しにくくなるなどの軽い脳卒中の再発を繰り返し全般的な脳神経機能の低下を来たします.わが国では脳卒中の中でも最も多いタイプで痴呆(脳血管性痴呆)の最大の原因でもあります。

a-2-ロ)アテローム血栓性梗塞

頭蓋外や頭蓋内の大きな脳動脈の粥状硬化性病変(アテローム)が基になって生じる脳梗塞です。通常、病変の進行は遅いので血流の低下を補うため頭蓋内外の側副血行路が発達する余地があります。しかし、大きな動脈に生じる病変ゆえに先天的、後天的な理由で側副血行路の発達が悪いと、影響を受ける範囲が広いのも事実です。従来は欧米人に多いタイプでしたが、最近日本人にも増えています。

b) 一過性脳虚血発作(いっかせい のうきょけつ ほっさ)

 一過性脳虚血発作は “脳梗塞のまえぶれ”ともいえるです。一過性脳虚血発作は発作の時間も短く症状も比較的軽いのが特徴です。これは一時的に脳の血管がつまるけれど、血流がまもなく再開するからです。このため見逃され易いのですが、一過性脳虚血発作を放置すると約30%は近い将来に本物の脳梗塞になってしまいます。

 一過性脳虚血発作の具体例を呈示します。一過性のまひ:食事中に無意識のうちに箸を落とす。一過性のしびれ:一過性に顔とか、手足の感覚がなくなる。一過性の言語障害:一時的に言語がしゃべれなくなる。一過性の視力・視野障害:片方の目が一瞬見えなくなる。視野の半分が見えなくなる。一過性のバランス障害:からだの中心が一時的にとれなくなる。一過性の複視:一過性に物が二重に見える。

 直ちに医師の診察をうけるようにしましょう。症状は一過性で軽微だったので一晩寝れば治るだろうと思いこんで様子をみるのはよくありません。病院では症状や既往歴に応じてCTスキャンやMRIによる精密検査や脳梗塞に準じた治療を直ちに開始するようにしています。脳梗塞の治療で後遺症を最小限にするためには早期治療が1つの重要な要因です。

c) 脳出血 (のう しゅっけつ)

出血の程度に応じて症状もさまざまで、小さな脳出血はなんら症状を出さないか、手足のしびれや運動障害、ふらつき、あるいは言葉が話しにくくなるなどの軽い脳卒中の発作を呈しラクナ梗塞が疑われることもあります。しかし、重症例は激しい頭痛、高度の運動麻痺や意識障害で発症して、呼吸障害、血圧と脈拍の異常を伴う傾向があります。高血圧が長く続くと大脳の深部にある基底核、小脳の深部にある歯状核、それに脳幹部などを養う細い動脈(穿通枝)が変性や壊死を起こして破れやすくなります。従って、これら穿通枝によって養われる部位が高血圧性脳出血の好発部位となります。脳出血は大部分が高血圧患者に起こりますが、稀に脳動静脈奇形やもやもや病が原因で、高血圧のない患者、小児、若年者に起きることもあります。

d)くも膜下出血(くもまくか しゅっけつ)

くも膜下出血の主な原因は脳動脈瘤の破裂です。脳動脈瘤はかつては脳動脈の先天的な奇形と考えられたこともありましたが、いまではその多くは脳の底にある主要な脳動脈瘤の枝分かれした部分の、もともと弱い部分が、中高年になって、こぶ状に膨れ出してきたものと考えられています。動脈自体の加齢現象と高血圧などの後天的な因子の関与も大きいようです。症状は出血の程度に応じて、警告症状(warning sign)といわれる軽い頭痛から昏睡状態まで様々ですが、通常は突然の極めて激しい頭痛で発症します。多くは吐き気を訴えたり、嘔吐を伴います。大まかに言って、くも膜下出血の初回発作で患者さんの20%が病院に収容されることなく死亡し、病院に収容されたとしても初回発作、その合併症ならびに再発作による死亡率は高くて全体の死亡率は50−60%に達し、脳卒中の中でも生命に対するリスクの最も高い疾患です。そして社会復帰を果たすのは全体の1/3程度という現状はその治療の困難さを物語っていると言えましょう。24時間以内、ことに最初の6時間以内の再出血を起こす率が高いことが知られています。救命率をあげ、より多くの患者さんに社会復帰を果たして頂くためには、急性期、超急性期の迅速かつ適正な治療が極めて重要です。はじめに搬入された病院に専門医がいなければ呼吸・循環管理や再出血に十分に対応出来ませんので、出来るだけ早期に専門病院へ搬送しなければなりません。搬送に当たっては医師が付き添い、鎮静と血圧管理を十分におこなって再発作を予防することが重要です。

II 脳の血管病変

1)    脳動脈狭窄(のう どうみゃく きょうさく)

多くは高血圧患者、高齢者に生じる粥状硬化性病変(アテローム)によるものです。アテロームが厚くなり血液が流れるスペースが狭なると、脳に必要な血流を維持出来なくなって症状が出現します。また、アテロームに血栓が付着したりアテローム内に出血すると急に血管内腔が塞がり脳卒中発作を呈することがあります。

2)    未破裂動脈瘤(みはれつ どうみゃくりゅう)

近年、CT (CTA), MRI (MRA)などの画像診断の進歩、普及に伴って、未破裂でなんらの症候を呈してない状態(無症候)で発見される動脈瘤が増えてきました。偶々、検査を受けて予期しない脳動脈瘤が見つかると、多くの人は、大変驚き、かつ心配します。「頭の中に不発弾を抱えているようなもの」等の不用意な医師の言葉はそれに拍車をかけます。このような場合どう対処するかは難しい問題ですが、病気が見つかったことの不幸を嘆くよりも、大事に至る前にリスクのある病変が見つかったことを幸いと考えて、落ち着いてご自分の状況を判断し、治療を受けるかどうかの判断をするべきでしょう。その拠り所となる事実を、これまでの重要な文献、最新の文献に基づいて以下に述べます。

動脈瘤が引き起こす臨床症候

動脈瘤が破裂して起こる“くも膜下出血”が最も良く知られていますが、それ以外には、動脈瘤が大きくなった場合に周りの脳神経を圧迫して症候を出すことがあります。臨床症候は複視(物が2つに見える)、片麻痺(半身不随意)、脳幹症候(物が飲み込みにくい、ロレツが回らない)など動脈瘤ができた場所によってことなります。また、動脈瘤の中にできた血栓が先の方の動脈に詰まって脳梗塞を起こすこともあります。

未破裂脳動脈瘤の発見率

中年層には男で0-3.1%、女で0-3.4%、高年層には男で4.3-4.9%、女で7.4-12.0%といわれています。このことからも分かるように、決して稀なものではありません。

未破裂脳動脈瘤が破裂する可能性ならびに確率について

命を脅かす最大の原因である脳動脈の破裂という問題に限って述べます。なにも治療をしないと未破裂脳動脈瘤がどのような経過を辿るかという自然経過に関しては、破裂を起こす確率は文献上は年間0.05-3%、平均して1-2%と言われています。したがって累積破裂率は10年間で10−20%、20年間で20−40%となります。ごく最近ヘルシンキ大学から出た未破裂動脈瘤の自然経過についての文献は、バイアスがなく、最も信頼が出来るものと考えられますが、それでもほぼ同じような結果で、年平均破裂率は1.3%、診断後の累積破裂率に関しては10、20、30年でそれぞれ10.5, 23, 30.3%になっています。動脈瘤破裂が死亡につながったものは52%と高率です。

3)    脳動静脈奇形(のう どうじょうみゃく きけい)

脳動静脈奇形は流入動脈、ナイダス(脳動静脈奇形の臍とよばれます)、および導出静脈から構成される異常に拡張した脆い血管塊です。極めて多量の血流を周辺の脳から奪うと同時に充血も引き起こします。このために生じる症候は頭蓋内出血、てんかん、進行性神経脱落症候などが主なものです。稀な病気ですが、ことに若年者の脳出血やくも膜下出血の原因として重要です。

4) 動静脈瘻(どうじょうみゃく ろう)

4-a) 硬膜動静脈瘻(こうまく どうじょうみゃく ろう)

脳脊髄を包む3枚の膜のなかで最も外側にあり、厚くて硬い膜(硬膜)に出来る動静脈瘻ですからこの名が付きました。ほとんどが、この膜で出来た静脈洞(脳の静脈が集まって出来た下水の本管のような太い静脈)に出来ます。脊髄の場合は神経根を包む硬膜の鞘に出来ます。患者さんの大多数は中高年者で高血圧や動脈硬化を有しており、後天的な病気と考えられています。どこの静脈洞にこの病気が出来るかで症候は異なり、目の奥の静脈洞(海綿静脈洞)の場合は目が充血して突出してきたり、物が二つに見えたりします。耳の奥の静脈洞の場合は心臓の鼓動に同期した拍動性の耳鳴りが特徴的です。病気が進行すると静脈洞が閉塞する傾向があり、そうなると多量の血液が脳の静脈に逆流して、脳が充血したような状態となり、脳梗塞や脳出血を起こすようになります。静脈洞が集合する場所(静脈洞交会)に出来たり、両側に出来ると脳の広い範囲が影響を受け、意識障害や痴呆様の症状を呈します。脊髄の硬膜動静脈瘻は稀な病気ですが、中高年者で両下肢麻痺、膀胱直腸障害が徐々に進行する場合はこの病気のことも考えておかなければなりません。

4-b) 外傷性動静脈瘻(がいしょうせい どうじょうみゃく ろう)

刺創、銃創などの外傷、それに頸部の血管に直接カテーテルや針を挿入するなどの医療行為の合併症として頭や首の太い動脈と静脈がダイレクトにつながってしまうことがあります。また、交通外傷や転落などの鈍的外傷にともなう頭蓋底骨折で、内頸動脈が裂けて海綿静脈洞と動静脈瘻を形成することもあります(内頸動脈海綿静脈洞瘻)。血圧の高い動脈と血圧の低い静脈が直接につながると、動脈と静脈の間に丁度ブラックホールが生じたような状態となります。多数の動脈から正常の組織に流れるべき動脈血が奪われ、静脈に吸い込まれて著しく拡張し、静脈も処理し切れない程の大量の血液が流れ込むことになって拡張して静脈瘤が出来ます。主な症候は激しい拍動性の雑音と著しく拡張した血管による容貌の変化です。また、静脈瘤が脊髄や神経根を圧迫して手足の麻痺や感覚障害、膀胱直腸障害を出したり、上流にあたる頭蓋内圧上昇による症候を出すこともあります。内頸動脈海綿静脈洞瘻では眼の充血や突出などの眼症候が激烈に出現します。

4-c) 特発性動静脈瘻(とくはつせい どうじょうみゃく ろう)

先天的な間質結合織の病気で血管が脆い病気がいくつかあります。このような病気をもったひとは動脈が自然に、あるいは軽い外傷を契機として破れて静脈とつながってしまい、動静脈瘻を形成することがあります。症状は外傷性動静脈瘻と同じです。また、先天的に頸部や頭蓋内でもった新生児や小児が稀に存在しますが、先天的な動静脈瘻は極めて多量の血液が流れ込んでいるため、動脈、静脈ともに著しく拡張しているものが多いようです。このようなものは超音波エコー検査で出生前に診断がつくようになったので、出生と同時に必要な処置が出来るように準備が出来るようになりました。

3] 治療の方法

治療総論で3つの治療法のあらましの説明を述べ、続いて治療各論で個別的にどのような病気にどの治療法が選ばれるか、およびその方法について説明します。

治療総論

内科的治療

脳卒中の内科的な治療のポイントは脳の専門的な治療+全身管理です。脳卒中治療では障害された脳の機能障害を最小限にするという専門的な治療が不可欠ですが、同時に脳卒中に伴う全身への悪影響を最小限にするなど全身管理を行うという2本の大きな柱があります。言い換えますと、病気は脳に生じるのですが、脳の専門的な治療のみでは不十分で、肺炎、ストレス性潰瘍、心不全などの脳卒中に伴う合併症の予防を中心とする全身管理が必要です。実際、入院と同時に生じやすい合併症の予防に努め、合併症が生じた場合には早期に適切な対応をするという先手先手の治療を行うように心がけねばなりません。脳卒中の内科的治療には神経学的な脳の専門知識と、循環器病学や止血血栓学などを統合した脳卒中学(strokology)を修得した医師を、一般内科的な知識および豊富な経験を備えた医師がバックアップする態勢が望ましいと考えられます。

外科的治療(開頭手術)

全身麻酔で頭蓋骨の一部に窓を開け、手術用顕微鏡を用いて脳深部を明るく照らし、術野を1030倍に拡大して神経や血管を1本ずつ確認しながら手術を行います。太さが1o以下の血管を吻合できるマイクロサージュリーの器具と技術で、脳動脈瘤クリッピング手術・脳動静脈奇形摘出術・脳内血腫除去術・頭蓋内外バイパス手術などを行います。いずれも長い歴史のある手術法で、技術的に完成の域に達し、これらの病気の治療のスタンダードとなっています。

血管内治療

大腿動脈(ふとももに手を置くと拍動を触れる大きな動脈です)からカテーテルと呼ばれる細い管を入れます。このカテーテルをx線透視装置で見ながら腹部大動脈を経て大動脈弓へ進めます。さらに脳を養う4本の脳動脈の中から病変部に至る動脈を選んで首のところまでカテーテルを進め、そのなかを通していろいろな道具や材料を使って血管の中から治療します。病変部が頭の中にある場合は、普通のカテーテルの中に直径1mm足らずの細くて柔軟なカテーテル(マイクロカテーテルと言います)を入れて、コンピューターで作成した患者さんの脳血管のロードマップをなぞるようにして、複雑な脳の動脈の中をいくつもの枝分かれを越えて注意深く進め、病変部に到達させます。このような脳血管のナビゲーションを行なうことで、開頭せずに正確で安全な治療が可能となります。元来、外科手術の困難な病変、高齢者、余病があり外科手術に耐え得ない患者さんを救うために開発された治療法ですが、安全性と有効性が認められて適応が広がっているところです。病変部を切開する必要がないため、患者さんの心身に対するストレスの少ない治療法であるとともに、費用対効果の高さも注目されています。

治療各論―治療の理念と方法

I. 脳卒中

1)    脳梗塞(のう こうそく)

脳細胞は、血流の流れが途絶えると数分で完全に死んでしまいます。但し、1本の血管がつまっても、バイパスを通じて他の血管からある程度の血液が供給されるため、血流が急に完全に絶たれることはありません。血管がつまってから数時間の間は、死んでしまった脳の部分の周りに、より広く死にかかった領域が広がっており、血流の悪いところから順に死んでいきます。言い替えると、この数時間の間に血流を復活させてやると、死にかかった部分は回復する可能性があります。脳梗塞の治療が一刻を争う理由です。但し、血流を再開させる治療方法は、脳梗塞を起こした原因、詰まった血管の種類、経過した時間などにより、すべてのタイプの脳梗塞に適応できるわけではありません。

1-A) 急性期治療

1)血栓溶解療法

原則として脳塞栓症を対象とし、血栓を溶かす薬(線溶剤)を注入して詰まった脳の動脈を再開通させます。脳血栓に対しても線溶療法が行われることがありますが、動脈が細くなった所が再び閉塞することが多いので、血栓融解後に血管形成術が必要となります。既に死んでしまった脳の領域の広さ、まだ救える領域の広さなどを知るためのMRI診断法の研究が活発に行われています。現在のところ、効果が期待出来るのは以下の条件を満たすケースとされていて、これから外れるケースは脳梗塞部に出血を起こしたりして悪化する恐れがあります。

 1)内頚動脈系:

  a)発症3―6時間以内

  b)CT検査で梗塞を疑う異常がまだ出ていないこと

  c)脳血流検査で、血流低下が高度の領域が広がっていないこと

  d)血管撮影にて、側副血行路の発達が良好であること

 2)椎骨脳底動脈系:発症より時間が経っていても、24時間以内であれば有効な症例があります。

線溶剤は静脈から点滴投与する方法と、動脈から投与する2通りの方法があります。わが国の保健診療で認められた唯一の治療法は少量のUK(ウロキナーゼ)を点滴静注するやりかたで、これでは閉塞した動脈を再開通させる望みはありません。同じ点滴静注でもアメリカで開発されたrt-PA〔遺伝子組み替え組織プラミノーゲンアクチベータ〕の有効性は証明され、FDA(米国食品医薬品局)で認可されてから全米の脳卒中センターで急性期脳卒中治療が活発に行われるようになりました。動脈から投与する方法は、血管内治療の技術でマイクロカテーテルを頭蓋内の動脈まで進めてUkやrt-PAなどの線溶剤を注入します。比較的少ない薬剤の使用量で再開通をおこす率が高く、上記の基準にあったケースでは治療効果が期待出来ます。しかし、まだ薬事法で認可された治療法とはなっていません。

なお、血栓溶解後、以下の治療が必要です:

  1)抗凝固療法による再閉塞の予防

  2)厳重な血圧管理による出血性梗塞(梗塞に陥った領域に起きる脳出血)の予防

2)抗トロンビン治療

 発症48時間以内のアテローム血栓性脳梗塞にアルガトロバンを1週間使用します。

3)抗血小板治療

血液を固まらせる作用を持つ血小板の機能を抑えて血栓が出来るのを予防します。

a)オザグレル治療

 ラクナ梗塞の片麻痺にオザグレルナトリウムの有効性が確認されており、急性期14日間を目安に点滴投与します。

b)アスピリン、チクロピジン治療

神経脱落症候の回復、死亡率の減少と脳卒中の再発予防に効果があることが最近の国際研究で証明されています。

4)抗凝固療法(ヘパリン)

 心原性脳塞栓症の急性期再発予防としてヘパリンという血栓形成を予防する薬剤が効果があります。

 主幹動脈閉塞による脳塞栓では、閉塞血管の再開通による出血性梗塞が生じる恐れがありますので、慎重に使用します。

 高度な出血性梗塞を予防するためには、ヘパリン使用中には血圧管理を十分注意して行います。

5)血液希釈治療

 低分子デキストランは血液粘度を低下させ、側副血行路を介する血流の改善をもたらし、脳の血流を増やすことが知られています。

6)グリセロール治療

 グリセロールは主に心源性脳塞栓症で脳浮腫(はれ)の治療ために使用しますが、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞では循環改善目的で使用することもあります。

7)血圧管理

 脳梗塞では急性期は原則として降圧はしません。脳梗塞の急性期には脳の自動調節能が障害され、脳血流が血圧に依存するので、急性期に降圧を行うと症候の悪化・梗塞巣の拡大を来す場合があるからです。

 心機能に問題がなければ、収縮期血圧が200mmHgまでは降圧をしないで経過を観察します。

 但し、主幹動脈閉塞による脳塞栓で、抗凝固療法中には、高度な出血性梗塞を予防する目的で、降圧を行うことがあります。

 血圧低下時に症状の増悪があれば昇圧剤を使用することがあります。

8)高気圧酸素治療

 高圧タンクによる高気圧酸素治療は血管が細くなったり、つまったりして、酸素が到達しにくくなった脳の隅々まで酸素を送り込み、脳細胞の働きを助ける目的の治療です。
 <注意点>高気圧酸素治療は狭い治療室で行われるため重症で呼吸状態の悪い患者さんでは行えません。高圧タンク内は気圧が高くなるため、耳がつまったり痛くなったりすることがあります。一時的に鼓膜に小さな穴を開ける処置をします。酸素の使い過ぎも身体に負担がかかりますので、1日に2〜3時間に限っています。

9)低体温療法

 脳の血流が途絶すると、鬱熱が起こり、脳のダメージがひどくなります。脳梗塞の動物実験で、脳の温度を3−5度低下させると神経細胞の保護効果があることが知られて低体温療法が注目されるようになりました。血流再開を達成できるまでの脳のダメージを少なく出来ることが期待されています。

 意識障害を伴う重症の脳梗塞に対し超早期に始めると有効であるという臨床報告が散見されるようになり、この方法の有効性を確認するための臨床治験も始まりました。

 問題は全身麻酔が必要で、集中治療室で管理しなければならないこと、肺炎などの全身的合併症を起こしやすいことです。

 患側の脳のみを冷やす簡便なシステムの開発などの技術革新によって、発展する可能性はあります。

10)リハビリ開始の目安について

  運動麻痺による関節拘縮の予防は発症直後より重要であり、良肢位を保ち、他動的な運動によるリハビリが必要です。臥床による麻痺側の筋力低下、筋萎縮の予防のためにも早期リハビリが重要です。さらに、高齢者では臥床に伴う心肺機能低下が早期に起こりやすく、肺炎や膀胱炎の合併さらに褥創等を生じ易いので、早期より起座訓練が大切です。ベット上で臥床状態で行えるリハビリは発症急性期から行いますが、発症7日程度は症状の進行防止のために、起立および歩行訓練などは行わず、原則として安静とします。但し、高齢者では2日間程度症状の進行がなければ、安静を解除してできるだけ早期リハビリを開始します。

1-B) 再発予防の治療

a) 外科手術

a-1) 頚動脈内膜剥離術

頚部での内頚動脈高度狭窄の場合は、全身麻酔下に頸部の血管を切開して、内膜に沈着したアテローム病変切離除去し、血液の流れを改善します。

a-2) 頭蓋内外バイパス手術

内頚動脈、中大脳動脈などがすでに閉塞しているにもかかわらず、まだ大きな脳梗塞に至っておらず脳に対する血液量が不十分な場合に限っては、今後の脳梗塞の予防を期待しバイパス手術が行われます。一般的には頭皮に血液を送っている血管の一本である浅側頭動脈(耳介の前を指で触ると拍動している血管)を剥離して、頭蓋骨の小さい窓を通して、頭蓋内に移動し脳表の中大脳動脈皮質枝と吻合します。手術直後のバイパスを介する血液量は微量ですが、次第に増加します。このバイパス手術の適応に関しては国際共同研究で、内科的治療より十分優るとまでの結果が出なかったため、現在ではより個々の病態を慎重に検討して適応を決めています。また、巨大動脈瘤の手術などでより大量の血流をバイパスする必要のあるときは、下肢から採取した静脈片を用いてバイパスも行います。モヤモヤ病の小児に対しては、一般的な動脈硬化病変とは異なるため、血管吻合の他に硬膜の反転、筋肉挿入などの方法を用いて、側副血行を増加させ脳梗塞を予防します。

b) 血管内治療

わが国でも生活様式の西欧化にともなって、内頚動脈が頭蓋内に入るまでの首の部分での動脈硬化による病変が増えてきました。細くなったところに先端に風船のついたカテーテルを入れて膨らませて動脈を広げ、十分な血液の流れを回復させる血管形成術が近年めざましい進歩を遂げてきました。元来は高齢者や心臓病などの余病があって手術に耐え得ない患者さん、高い位置に病変があって外科手術が難しい患者さんのために開発された治療法です。さらに、ステントと呼ばれる金属の筒を留置するようになって安全性と有効性が確立されて来ました。現在進行中の大規模な臨床テストでそれが証明されれば、外科手術にとって代わる強力な治療法になる可能性があります。頭蓋内の病変にたいしては血管形成術のリスクがまだかなり高いので、頭蓋内外バイパス手術の方が優先されます。

 

2) 脳出血 (のう しゅっけつ)

脳出血(脳内出血)の治療は原因疾患、出血の起こった部位、大きさ、患者さんの年齢と合併症の有無などによって異なります。ここでは脳出血の主なタイプである高血圧性脳内出血の治療について述べます。治療の基本は開頭手術をしない内科的な治療ですが、出血した場所と大きさ、それに患者さんの状態によっては血腫(血の塊)を除去するため、定位的外科手術や脳内視鏡による外科手術を行う必要もあります。

出血によって破壊された脳は元に戻すことは出来ません。治療のターゲットは脳への圧迫を緩和すること、再出血の防止と血腫の周囲の脳の浮腫(はれ)を抑え、頭蓋内圧が上がるのを防止すること、全身合併症の治療をすることです。

I] 内科的治療:発症から2週間以内の薬物治療について

1)再出血の予防:血圧のコントロール

脳出血の発症6時間以内は再出血が生じやすいので、収縮期血圧120ー140mmHg程度に降圧します。(特に、発症1−2時間以内は血腫がさらに大きくなりやすい。)

降圧剤は静注、あるいは、点滴で使用する降圧剤(ヘルベッサー、ペルジピン、ミリスロールなど)を使用します。

上記の4つの薬剤の中では、脳圧を上昇させることなく、かつ、脳血流を低下させないという観点から選択すれば、第1選択はヘルベッサーです。

脳梗塞の急性期と同様に脳出血の急性期には脳の自動調節能が障害され、脳血流が血圧に依存するので、急性期に降圧を行うと血腫周辺部の障害が進行するので降圧は行わないとの意見もありますが、再出血が生じると明らかに予後が不良となるので、再出血防止の方がより重要と考えられます。

発症24時間以降は原則として内服薬に移行します。

2)脳浮腫の治療

a)     発症直後(搬入直後)から使用する場合

  瞳孔不同や除脳硬直肢位などの脳幹障害を示唆する徴候を認める場合には、直ちにグリセロール使用を開始するとともに、緊急手術を考慮する必要があります。

 b)発症12時間前後から使用する場合

  JCSU-20からV−100程度の意識障害を伴う脳出血では発症12時間前後からグリセロール使用を開始します。

 c)24時間以降に使用する場合

その他の症例では、原則として、発症24時間以内は、急激な脳圧低下のために再出血を助長する可能性があるので使用しません。

使用量は1回量150ー250mlを1日3ー4回(8時間ごとあるいは6時間ごと)。

3)全身の合併症に対する治療

脳出血に伴って、胃潰瘍、肺炎、尿路感染症などが起こりやすく、それが全身状態、意識レベルを悪化させることがありますので、治療を要します。

4)リハビリ開始の目安について

ベット上で臥床状態で行えるリハビリは発症急性期から行います。起立および歩行訓練などは意識障害のない症例では発症後3ー4日ごろから開始しますが、意識障害がある症例では脳浮腫の終了する7ー10日ごろから開始します。やはり、高齢者ではできるだけ早期リハビリを開始する必要があります。

II] 外科的治療

脳出血の程度が強く、血腫によって生命中枢である脳幹が圧迫される場合には、救命を目的として血腫除去術が必要となります。既に昏睡で瞳孔が散大し、自発呼吸が停止し、脳幹障害が完成している場合は手術の適応はありません。また、脳幹そのものに出血した場合も手術の意味は極めて低くなります。外科的治療法には、全身麻酔下で開頭して顕微鏡手術にて血腫を除去する方法と、局所麻酔下で穿頭(小さな穴を開ける)にて定位脳手術装置を用いて細い管で血腫を吸引、ドレナージする方法があります。前者では、発症直後の比較的大きな血腫に対して行われ、急性期にはなお出血している血管があっても顕微鏡下に確実に止血出来る特徴があります。後者では患者さんに対する侵襲が少ない長所がありますが、血腫除去が十分でなかったり、術中出血に対しては止血が困難な危険があります。また最近では、脳内視鏡を利用して穿頭下に脳実質内だけでなく脳室内までより確実に血腫を除去する方法も行われつつあります。血腫が大きく脳浮腫が著明な場合は、脳圧のコントロールのために血腫除去だけでなく骨弁を一時的にはずす外減圧手術を行うこともあります。

3)くも膜下出血(くもまくか しゅっけつ)

急性期の治療で特に重要なポイントは再出血の防止と脳血管攣縮の対策です。

再出血は初回出血から24時間以内、ことに6時間以内に多く、再出血を起こすと死亡率は高く、後遺症を残す率も高くなります。激しい頭痛のため不穏状態になることが多いので、鎮静および鎮痛を十分に行い、厳重な呼吸・循環管理のもとに、必要な検査を迅速に進めます。再出血を防止する最も効果的な治療は開頭手術である脳動脈瘤クリッピング術です。この方法は長い歴史があり、治療法のスタンダードとして確立しています。もうひとつの治療法は脳血管内治療で、開頭手術ではアプローチ困難な動脈瘤や、心臓病など全身疾患や、高齢で開頭手術のリスクが大きいか不可能なケースを救済するために開発が進められました。この治療法は1990年代の初めにGDCという柔らかなプラチナ製のコイルが開発されてから安全、確実に治療出来るようになり正式に認可された治療法となっています。

脳動脈瘤(のう どうみゃくりゅう)の治療

あ) 開頭手術

全身麻酔下に頭蓋骨の一部に骨窓を開け,頭蓋底と脳との隙間を開きながら、親血管を剥離し動脈瘤に到達します。動脈瘤壁は非常に薄くなっていますので、術中に破裂しないように注意して顕微鏡でよく確認し動脈瘤を剥離して動脈瘤柄部にクリップをかけます。親動脈からの血流を完全に遮断することで、今後破裂する心配がなくなります。動脈瘤周囲にある細くても非常に大切な血管や神経は一本でも損傷しないことが重要ですが、破裂動脈瘤の手術の際には救命のため止むを得ず犠牲にせざるを得ない場合もあります。

頭蓋底に埋没した動脈瘤に対しては一部頭蓋底を削除して視野を得る操作を追加します。10oを超える大きな動脈瘤では複数のクリップが必要になったり,親動脈を遮断することがあります。また小さくておわん型動脈瘤ではクリッピングできず瘤壁を包んで補強するラッピングやコーティングする場合もあります。動脈瘤が破裂してくも膜下腔に出た血液は脳血管攣縮を引き起こすので、脳槽洗浄術を行って洗い流します。

い) 脳血管内治療

動脈瘤の出来ている場所ゆえ開頭手術ではアプローチ困難な場合や、心臓病をはじめとする余病があったり、高齢で開頭手術のリスクが大きいなど開頭手術が困難か不可能なケースを救済するために1980年代なかばから研究、開発されてきた治療法です。この治療法は1990年代の初めにGDCという柔らかなプラチナ製のコイル〔図〕が開発されてから飛躍的に発展しました。マイクロカテーテルの先端を動脈瘤の中にまで進めて、GDCで動脈瘤を詰めて治療します(動画)。激しいくも膜下出血のために、脳血管攣縮が避けがたいと考えられるケースでは腰椎穿刺で細いチューブを脊髄くも膜下腔に入れて、大後頭孔まで進めて線溶剤を注入し、くも膜下出血を洗い流して脳血管攣縮を防止します。

開頭手術か脳血管内治療か

それぞれに一長一短がありますので、経験豊富な専門家が一堂に会し、個々のケースについて患者さんの状態、動脈瘤の出来ている場所や形態、神経症候、全身状態等を考慮して、もっとも適した治療法を選ぶのが望ましいでしょう。迅速に動脈瘤を処置して再破裂を防ぐのが治療のポイントですから、動脈瘤の形ゆえ完全に詰めることの出来ない動脈瘤でも、まず超急性期に血管内治療で出血点だけでも詰めて再出血を防止してから血管攣縮対策を講じ、状態の落ち着いた慢性期にいづれかの方法で根治させるという選択もあります。治療成績に関しては当然のことながら、脳血管内治療も開頭手術とおなじように、術者の経験と技量によって異なってきます。脳血管内治療はまだ長期の治療成績が出ていませんが、治療してから数年間の成績は開頭手術と肩を並べるところまで来ています。一般に大きな動脈瘤は塞栓術後、コイルが圧縮されて再発する傾向がありますが、コイルのデザインと物性の改良によって、近い将来に治療成績がさらに向上することが期待出来ます。

治療が困難な場合

70才以上の高齢者

以前、脳梗塞、脳出血などの脳血管障害に罹ったことがある場合

手術により神経脱落症候の出現の可能性が高いと予測される場合

心疾患、喘息、肝臓障害、腎臓障害、糖尿病など内臓の疾患、代謝性の病気を有する場合

外科手術の場合は

椎骨脳底動脈系など頭の解剖学的な特性から、アプローチが出来にくい場所に出来た動脈瘤、それに動脈瘤の直径が2cmをこえる巨大なもの

脳管内治療の場合は

動脈瘤の頸部が細くくびれていない場合、動脈瘤の直径が1cmをこえる大きなもの、動脈瘤のなかに血栓が存在するもの

 

II 脳の血管病変

1)      未破裂動脈瘤(みはれつ どうみゃくりゅう)―無症候の脳動脈瘤が発見された場合どう対処したら良いでしょうか

予防的治療を検討する場合に個々のケースで考慮すべきこと

1)             動脈瘤の大きさ

 一般に、小さい動脈瘤に比べて直径1cm以上の大きな動脈瘤の破裂率は有意に高いといわれていますが、直径1−2mmの小さいもので破裂することがあり、また、1cmを超える大きなもので容易に破裂しないものもあるなど、例外は勿論あります。一般に直径4−5mmの中等大の動脈瘤は開頭手術時に見ると、壁が薄くなるような変化が起こっているものが多いことを多くの脳外科医が認めており、臨床的には危険サイズと言って良いでしょう。

2)             動脈瘤の形

娘動脈瘤(動脈瘤のドームの上に出来た小さな膨らみ)が出来て動脈瘤の形が不整形を呈するものは、そうでないものに較べて、有意に破裂し易いといわれています。

3)             脳動脈瘤の出来ている場所

 後頭蓋窩の動脈瘤はそれ以外の動脈瘤に較べて有意に高い破裂率を示しています。多発性動脈瘤における部位別破裂率を見ますと、1位が椎骨脳底動脈系の動脈瘤、2位が前交通動脈を含む前大脳動脈の動脈瘤、3位が内頚動脈の動脈瘤、4位が中大脳動脈の動脈瘤となっています。

4)             年齢

年間平均破裂率1−2%に対し、40代、50代の破裂率は4−5%と高い。生涯破裂率を推計学的に検討すると、破裂率は加齢とともに減少し、70才を境に破裂率は有意に低下します。

5)             家族歴

動脈瘤の家族歴のある人は、ない人に較べて、動脈瘤の発生頻度は高く、破裂率も高いことが知られています。

6)             経時的変化

定期的に検査して、動脈瘤が大きくなってくる場合は、そうでない場合に較べて、破裂の危険は大きくなります。

以上の6項目の多くに該当する人は危険率が高いと考えて、予防的治療を真剣に考えるべきでしょう。

治療の方法

開頭手術(いわゆる脳外科手術)と脳血管内治療(塞栓術)の2通りあります。治療法の詳細についてはくも膜下出血の項をご参照下さい。なお、未破裂の場合は破裂動脈瘤に比べてどちらの方法も、治療のリスクは少なくなります。治療成績は術者の技量と経験によりますが、未破裂動脈瘤の開頭手術を経験豊富な術者が行った場合は合併症の発生率は2%といわれています。しかし、開頭手術の場合には動脈瘤に到達するために脳をヘラで圧排(押しのける)操作が必要ですので、アプローチ困難な場所の動脈瘤などでは脳が傷つく恐れがあります。そのため、高次脳機能などの評価を神経内科医が厳密に行うと10%近くに何らかの障害が出ているという報告もあります。脳血管内治療の場合も合併症の生じる頻度は術者の技量と経験によりますが、これまでの報告の多くは、治療中の動脈瘤破裂の頻度は約2%、マイクロカテーテル、GDCなどに付着した血栓が脳動脈の先のほうに詰まって生じる脳梗塞などを含めると全体で約5−6%となっています。

まとめ

無症候の動脈瘤は破裂その他の危険性を秘めてはいますが、現時点では症候を顕してはいないものであり、その対応には苦慮するところです。予防的治療はあくまで患者さんご本人のご判断と希望によるもので、医師のほうから積極的に治療を勧める筋合いのものではありません。以上の情報を参考に、慎重な判断をすべきものと考えれます。

 

2) 脳動静脈奇形(のう どうじょうみゃく きけい)

従来外科手術による摘出術が唯一の治療法でしたが、脳外科手術の中では最も難しいものでした。ことに重要な機能を営む脳部分を占拠するものや大きなものは手術不能であったり、摘出すると重い後遺症を残すことがありました。このため手術法の改良とともに、血管内治療や高エネルギー治療との併用療法の開発が活発に行われて治療成績が目覚しく向上し、従来治療できなかったものも治療が出来るようになってきました。

2-a) 外科治療

脳動静脈奇形は流入動脈、ナイダス、および導出静脈から構成されますが、開頭手術にてこれらを全摘出することによって今後の出血を予防します。

脳動静脈奇形そのものは正常な脳には血流を送っていないので摘出しても障害は出現しませんが、血管奇形の存在する部位によっては摘出する際に、隣接する脳が傷つき、神経症状が出ることがあります。

個々の症例の手術の難易度は、血管奇形の大きさ、部位、深部静脈の関与などによる分類から判断します。手術困難が予想される症例は他の治療法の併用も含めて、適切な治療法を検討します。

2-b) 血管内治療

脳動静脈奇形の中までマイクロカテーテルを進め、樹脂を注入して奇形を詰めます(塞栓術)。こうして病変部を流れる血流を減らし、脳動静脈奇形のサイズを3cm以下に縮めることが出来ればあとは高エネルギー放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフなど)で治せますし、大きなものでも外科手術による摘出術の成功が期待出来ます。病巣が大きな場合は数回に分けて塞栓術を行います。

 

3) 動静脈瘻(どうじょうみゃく ろう)

動静脈瘻は動静脈奇形と違って、ナイダスが存在せず、流入動脈が直接に導出静脈に流れ込んでいます。通常、極めて多数の動脈から多量の血液が流入するため、外科手術は極めて困難または不可能です。血管内治療ではカテーテルで病変部まで容易に到達でき、様々な材料で詰めて(これを塞栓術といいます)徐々に血液の流れ(血流)を落とすことが出来るので、最も安全かつ効果的な治療法であり、いまでは第1選択となっています。放射線治療は高血流の病変に対しては効果がありません

3-a) 硬膜動静脈瘻(こうまく どうじょうみゃく ろう)

血管内治療の進歩で殆んどが完全に治療出来るようになり、末期になる前に治療すれば症候の回復も極めて良好です。稀に外科手術や放射線治療との併用療法が必要となることもあります。

3-b) 外傷性動静脈瘻(がいしょうせい どうじょうみゃく ろう)

血管内治療の技術で離脱式の風船、コイル、瞬間接着剤などの塞栓材を使って、殆んどの場合完全に治療できますが、動静脈瘻を塞ぐのは激流のなかで決壊した堤防を修理するようなもので、適正な材料の選択と術者の機敏な判断が極めて重要です。

3-c) 特発性動静脈瘻(とくはつせい どうじょうみゃく ろう)

外傷性動静脈瘻と治療上はかわることはありません。ただし、ガレン大静脈瘤には特殊の問題があります。つまり新生児、小児の疾患ですので、血管は極めて細くて脆く、しかも動静脈瘻の中でも最も血流が早いために治療のリスクが大きいので、新生児科、小児麻酔医との協力のもとに熟練した脳血管内治療医が治療にあたらねばなりません。なお、治療の適応については生まれた時の脳の荒廃状況、心臓や肝臓などの全身状態も考慮して決定します。

 

4] 治療の実例―このように治療します

脳塞栓(のう そくせん)

脳動脈狭窄(のう どうみゃく きょうさく)

くも膜下出血(くもまくか しゅっけつ)

  40代の男性、突然の激しい頭痛に続いて嘔吐。40分後に救急車で搬入される。入院時、軽度の意識障害あり、左手足の軽度の麻痺を認めた。入院時のCTで脳底槽、左のシルビウス裂にくも膜下出血を認めた(図1の矢印)。血管造影で脳底動脈から小脳を養う動脈が分かれる所に小さな動脈瘤を認めた(矢印)。この動脈瘤は後頭蓋窩という厚い骨と脳幹部に囲まれた場所にあるため、開頭手術は極めて困難なので、脳血管内治療が行われた。動脈瘤は血流方向に出来ているため、カテーテルを動脈瘤に入れて、GDCで詰めることに困難はなかった。患者は数週間で歩いて退院した。

未破裂動脈瘤(みはれつ どうみゃくりゅう)

  60代の女性。脳ドックで多発性動脈瘤が見つかった。そのうちの2個は6-7mmを越えていた為、治療を行うこととなる。まず、内頸動脈から眼に行く動脈が分かれるところに出来た動脈瘤と、内頸動脈が海綿静脈洞を出た直後に存在する動脈瘤を2個(図1の矢印)、GDCで詰めた。なお、中大脳動脈分岐部の動脈瘤(矢頭)は場所的にも形態的にも開頭手術のほうが安全と考えられたのでクリッピング術が行われた。つぎに脳底動脈尖端の動脈瘤〔図2の矢印〕を同じくGDCで詰めた。

脳動静脈奇形(のう どうじょうみゃく きけい)

  50代の男性。20代にくも膜下出血があり、以後時々激しい頭痛がある。血管撮影で左の後頭葉に動静脈奇形をみとめる。なお、動静脈奇形の栄養動脈に小さな動脈瘤を認めるがこの動脈瘤は娘動脈瘤(動脈瘤の上の小さなこぶ)を生じており、破裂の危険が高いと判断されたので、まず、GDCで動脈瘤を側線した(図2)。ついで脳動静脈奇形にマイクロカテーテルを入れて塞栓し、サイズを縮小させた(図3)。最後に脳動静脈奇形に高エネルギー放射線治療(ガンマナイフ)を行って、1年後には完全に治癒させることが出来た(図4)。

動静脈瘻(どうじょうみゃく ろう)

   硬膜動静脈瘻(こうまく どうじょうみゃく ろう)

   ガレン大静脈瘤(ガレン だいじょうみゃくりゅう

   妊婦検診の際、超音波エコー検査でガレン大静脈瘤が見つかった(図1の矢印は胎児の頭の深部にある静脈瘤)。生後定期的に検査を行っていたが、10ヶ月になると、水頭症が出てきたので、造影治療を行うこととなった。血管造影では著しく拡張した静脈瘤〔図2の矢印〕太い動脈が直接流れ込んでいる。太股の動脈から静脈瘤の直前までマイクロカテーテルを送り込んで、樹脂で動脈と静脈の接合部を塞いだ。図3は治療後の血管撮影で、静脈瘤は写らなくなっており、流入動脈も正常のサイズに戻っている。図4は治療にともなうガレン大静脈瘤の変化。治療前著しく拡張したガレン大静脈瘤は激しい血流の為に黒く写っている。治療後血液が停滞して固まると白く写るようになる。5ヵ月後になると、明らかに縮小している。治療直後から活発になり、その後正常に発育している。

 

5] 医療の問題点

脳卒中は現在なお、死亡原因では第2位、入院の原因としても第2位を占めて平均在院日数は極めて長く、単一疾患として最も国民の医療費を費やし、重い後遺症のために寝たきりとなる老人の約4割を占めています。その治療の変遷を振り返り、問題点を指摘し、望ましい脳卒中医療態勢についての展望を示します。また、時間的制約の極めて大きい脳卒中診療における医師との信頼関係の構築とインフォームド・コンセントの本質について考えてみたいと思います。

1) なぜ、いま脳卒中・脳血管病が大事なのでしょうか

歴史的レビュー:戦後も脳卒中の有効な治療手段のない時代には、ひたすら寝かせておいて、運良く再発を防止出来たら、リハビリに励むという状況が長く続きました。そしてこの頃、脳卒中に対する悲観主義が根付き、今でもそれが尾を引いています。1960年代になっても、わが国では出血性の脳卒中、とりわけ脳出血が多かったこともあって、まず脳神経外科医が血腫(血の塊)除去に積極的な取り組みを始めました。1960年代後半から1970年代にかけて発展を遂げた顕微鏡手術によって脳動脈瘤や脳動静脈奇形などの外科手術法が大きく進歩しました。